2013.7.9号
「ノーべル経済学賞と調達・購買の世界」

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        「目指せ!購買改革!!」     
      〜調達購買改革最前線〜
─────────────────────────── 2013.07.09  ─

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☆今週のメッセージ「ノーベル経済学賞と調達・購買の世界」
☆「調達・購買人材向けトレーニングセミナー」のお知らせ
☆コラム「設計魂と購買魂」−垣根を破るエンジニアの物語ー再掲

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■ 今週のメッセージ「ノーべル経済学賞と調達・購買の世界」
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5月の始め頃に日経新聞の経済教室で「マーケットデザイン」というものが取上げられていました。
私も全く知らない世界でしたが、慶應義塾大学の坂井先生がとても分かり易く執筆されています。
たいへん興味深く読ませていただきました。昨年のノーベル経済学賞は米国のアルビン・ロスと
ロイド・シャプレーという経済学者が受賞しました。この2人は「マーケットデザイン」の基礎と
実践に関しての貢献により同賞を受賞したのです。このように「マーケットデザイン」は最先端な
学問であることに間違いありません。

「マーケットデザイン」とは社会を豊かにするために優れたモノと人の組合せを最適化する、つまり
適切に配分する組合せを実現するための解決方法を見つけ出すものだそうです。
その解決方法となるのが「オークション」や「マッチング」です。

また政策研究大学院の安田先生によると「マーケットデザイン」は「経済学で得られた最新の知見
をいかして、現実の経済制度の修正・設計を行う研究分野」であり従来の机上(例えば完全競争
市場を前提としたモデル)の理論とは異なり「現実の制度設計に役立ち」「実践的応用」につながる
のが特徴とのことです。簡単に言うと経済学をより実学に落とし込んだものと言えるでしょう。

坂井先生の執筆の中でなかでも興味深い内容がありました。「第一価格オークション」よりも
「第二価格オークション」の方が優れているというものです。「第二価格オークション」とは
一番高い入札を行った参加者が二番目に高い入札額を支払う方法だそうです。
もし参加者が自分が支払ってもよいと考えている上限価格が10万円としても他の人が3万円
程度しか出さないと予想した場合、4万円で入札をします。ところが別の人間が5万円で応札
した場合に「第一価格オークション」では負けてしまいます。
これは売る側にしてみても一番高く買ってくれる可能性がある(本来持つべき)人に資源配分が
できずに、得られる筈の収益を手にできなかったことにつながります。また結果は確認の予想に
大きく左右されるため運任せになりやすいです。それに対して「第二価格オークション」の場合
には自分が最大いくらまで支払ってよいという上限額である10万円を提示すれば予想の4万円
を超えて別の人間が5万円で入札した場合にも5万円で落札できます。これは何よりも1番高い
評価値を持つ参加者が買うことになるのでより効率的な資源配分を実現できる方法です。
また、この第二価格オークションの方法はいわゆる公開型の競り上げオークションの結果と
ほぼ同じ結果が得られるそうです。つまり、競り上げオークションの場合、順次入札価格が
あがりますが、5万円を上限に誰も入札をしなければ自分が勝者となって5万1円という2番目に
高い評価値(とほぼ同じ金額)を支払うことになるのです。

調達・購買業務におけるオークションは通常競り下げ方式で実施されます。
また一般競争入札などの入札方式は封入式(誰がいくらで入札したか分からない)で最低価格
を競う方法です。以前私も実務やコンサルティングの現場で何度もオークションや入札は
経験していますが、一般的に競り下げ方式は時間がかかるが最安値引出しには封入方式より
効果的である、というのが通説です。
しかし実際には両方のやり方を比較しても(例えば昨年は競り下げ方式で今年は同じ商品を
封入式で入札実施した場合を比較)、感覚的には最低価格自体にそれほど差異はないという
実例もありました。
先ほどのマーケットデザイン手法を活用すると封入式でかつ2番目の最安値を採用する、という
やり方が最も効率的に最安値を引き出すための手法として応用できると考えられます。
オークションに関しては過去にサプライヤに対する情報開示で「順位のみ開示」のやり方の方が
「最安値価格を開示」よりもより安値を引き出すことができる、という分析をしていた企業があり
ました。このような新しい制度や経済的な手法を実務と絡めて実施し分析・検証を行い次の新しい
取組みに活用していくということは非常に大切なことです。
このような視点は特に「職人技」を尊ぶ日本企業や調達・購買の世界にはより欠かせないでしょう。

マーケットデザインでは他にもバンドリング検証(組合せ発注)のためのオークション活用方法や、
「不安定な早いもの勝ち」を防ぐための「マッチング」手法などの考え方もあります。特にこの
「マッチング」手法はサプライヤとバイヤーという売り手と買い手の最適な組合せを最適化する上で
有効な考え方かもしれません。それは調達・購買の世界が1対nではなくn対nだからです。

マーケットデザインの手法は「周波数免許におけるオークションの活用」や「研修医マッチング」
「腎移植マッチング」「学校選択制」などの主に社会分野で活用されていますが、企業間取引に
おける活用はまだまだ進んでいないようです。私も含む現場での実務家がもう少しこのような手法を
上手く実務に取り入れるような意識や取組みが今後より求められるに違いありません。


当メルマガでご意見、ご質問、ご要望などございましたら
info-ag@agile-associates.comまでご連絡ください。
遅くなるかもしれませんが、必ず私(野町)からご連絡させていただきます。
よろしくお願い申し上げます。

(野町 直弘)

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■ 「調達・購買人材向けトレーニングセミナー」のお知らせ
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2013年度上期開催のプログラムをご案内します。
お早目のお申込をお待ちしております。

 『調達・購買人材向け交渉力』
     参加費:47,000円(税別)
     日 程:2013年 8月23日(金):多くの方のご参加をお待ちしております!
      お申込・詳細はこちら
      http://www.agile-associates.com/train/train.html
  「交渉プロセスを管理することで本当の交渉力を身につけます」
  
 『経費削減・間接材・サービス商材購買業務改革』
     参加費:47,000円(税別)
     日 程:2013年 9月6日(金)
      お申込・詳細はこちら
      http://www.agile-associates.com/train/train.html
  「経費削減活動や間接材購買部門の立上げなどのノウハウが学べます」

<<基礎セミナー>>
 『調達・購買業務基礎』
     参加費:33,000円(税別)
     日 程:第一回 2013年 5月17日(金):終了しました。
         第二回 2013年 7月12日(金):締切間近です。
         第三回 2013年 9月13日(金)
      お申込・詳細はこちら
      http://www.agile-associates.com/train/train.html
  「アジルアソシエイツの名物セミナーです。
   購買担当者としての心構えから技法・手法の基礎を学べます!」

<<上期終了>>
 『コスト削減手法と戦略ソーシング』
     参加費:47,000円(税別)
     日 程:2013年 6月14日(金):好評のうち終了しました。下期の実施をお待ちください。
      お申込・詳細はこちら
      http://www.agile-associates.com/train/train.html
  「一日でコスト削減手法の実際が学べます」

 『調達・購買・資材・契約部門の「中堅社員(バイヤー)のための育成研修』
     参加費:47,000円(税別)
     日 程:2013年 6月21日(金):好評のうち終了しました。下期の実施をお待ちください。
      お申込・詳細はこちら
      http://www.agile-associates.com/train/train.html
  「購買経験3-10年程度の中堅バイヤー向けのプログラムです!」

皆様のお申込をお待ちしております。

企業の個別研修をお引き受けします。
ご依頼、ご質問等々は、次のメールアドレスまで!
info-ag@agile-associates.com

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■ コラム「設計魂と購買魂」−垣根を破るエンジニアの物語ー
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日経BP社のTech-onサイトに掲載されているコラムですが
改めて皆さんにここでご紹介させていただきます。
2009年に私が執筆しました開発部門と購買部門を巡る話ですが、
今再読しても古さを感じさせません。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20081212/162766/

どうぞ楽しんでください。
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第三回「塗装コスト350円/個の攻防(2)」

「コストを決めるのは設計の仕事なんだよ!」

鈴木は購買のフロアに行く。田中に躯体のコストの話をするためにだ。鈴木は購買フロアで
田中の姿を見つけ声をかける。
「田中さん。」
「よお,えっと鈴木さんだっけ。樹脂成形のやり方わかったか?薬師の営業部長が感心
していたぞ。ずいぶん熱心にメモ取っていたって。」
「田中さん,それどころじゃないんです。新製品原価検討会議で原価目標未達が問題に
なっちゃって。例の躯体ですけど,田中さん,在家が一番安いって言ってたじゃないですか。
何で今650円のものが1200円になっちゃっているんですか。何でコストがこんなに上がって
いるのですか。」?

田中は少し,むっとしたようだ。
「鈴木さんよぅ。それは日本語の使い方が間違っているぜ。コストが上がっているのではなく,
コストを上げたんじゃないのか? それも設計が。」
田中はパソコンに向かい,資料をプリントアウトする。
「これが新製品と現製品の見積原価明細,それからサプライヤー選定提案書だ。まだ
最終承認をもらっていないけど,よく見てみろ。」
鈴木にとっては原価明細書というものを見るのは初めてだった。一番上の欄に仕様,材質,
重量等の設計スペックが書いてあり,真ん中には材料費,加工費,二次加工費,そして
下にはコスト計,金型費用の明細,概略の金型図面が記載されている。
「これが現製品,これが新製品。この二つをよく見てみな。鈴木さん。」田中は続ける。
鈴木は慣れない原価明細を見ながらその2枚の見積書の違いを探す。大きな違いは
一目瞭然であった。新製品の見積書には塗料,塗装費の項目が2次加工費に含まれている。
このコストが400円追加されていた。

「田中さん,これって新製品の躯体だけ塗装コストが入っているんですけど。」
「そうだ。今の要求仕様を満たすためには材着(塗装レス)では無理。塗装コスト分だけ高く
なっている」
「私が出図した図面に塗装指示なんて出していません。もし塗装が必要だとしても交渉して,
そのコストを抑えるのが購買の役割なんじゃないですか」?
「何言ってるんだ。図面がでてきて,作るものが決まる。購買が作るサプライヤーを決める。
それでコストは決まる。あとはそれに見合った見積書が自動的にサプライヤーから出てくる。
何で交渉なんかする必要があるんだ。交渉なんて無能なバイヤーがやる仕事だ。
俺はこの10年間交渉なんて一切やったことはない。」田中は興奮を抑えながら静かに続ける。

「それにサプライヤーからは今回の新製品開発に合わせて,これだけの提案とプレゼンを
やっている」。田中はサプライヤー選定提案書に書かれているサプライヤー提案書のリスト
と新技術動向の資料を見せながら言った。
「…」鈴木は言葉につまった。
「鈴木さん,コストを決めるのは設計の仕事なんだよ」。
彼は机の上の一冊の「サプライヤー提案書」というファイルを取り出しながら続ける。
「在家から今回の新製品の躯体で塗装レスの提案が来ている。材料はやや高くなるが,
質感は塗装したものとほぼ変わらないし,コストは現製品+50円アップで済む,と言っている。
設計が塗装指示しなくても,品質管理とかマーケの連中の一言でコストなんてすぐアップする。
もう一度在家からサンプルと取り寄せて塗装レス品の採用検討をしたらどうだ」?

「…」鈴木は返す言葉につまった。確かにそうすべきだろう。ただ,その前にどうしても聞きたい
ことがあった。
「田中さん,お伺いしますが,購買の仕事って何ですか?」
「QCD(Quality,Cost,Delivery)の確保できる最適なサプライヤーの選定とサプライヤーとの
関係構築。それから強いて挙げれば,単に安くするのではなく,最適コストの実現だ」。

(次回へ続く)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20081212/162768/

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