2011.10.24号
「家族の虐殺問題」

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アジルアソシエイツの坂口孝則が送る 
〜調達購買マネジメントの深層と真相と心操〜
─────────────────────────── 2011.10.24 ─

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 ☆今週のコラム 『家族の虐殺問題』
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■ ☆今週のコラム 『家族の虐殺問題』

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「1億円をもってこい!!」

こんなことを言われたらどうだろう。そんなことをいきなり他人にいう人は、
おそらく狂人か、私たちの理解を超えた人だろう。

しかし、こういう仮定だったらどうか。

あなたの家族が殺人犯に捕まったとする。そして、その殺人鬼からあなたの
元に一本の電話がかかってくる。その殺人鬼は家族を虐殺すると告げる。
ただし、家族が殺されないために、一つできることがある、という。

それは「1年以内に、1億円をなんとか集めて持って来い」というものだ。
これならば、どうだろう。おそらく、ほとんどの人が、一年間を必死の思いで
駆け抜け、できることはなんでもやり(もちろん合法の範囲で)、必死に
必死になんとか1億円を集めようとするのではないだろうか。

さらに、こういう仮定を加えたらどうだろうか。
「1億円を持ってくるときに、誰かから借りてくるんじゃない。お前がなんとか
稼いで持って来い」。これでも、私には不可能とは思えない。
ほとんどの人たちが頭をひねって、なんとか家族を助けるために1億円を
工面するのではないか。

では、とここで立ち止まる。

なぜ、必死に頑張ったら1億円を1年間で手に入れることができるのに、
今のあなたはそうしないのか、と。もちろん、これは私自身に向けた問いでも
ある。家族の虐殺を防ぐためであればできることを、なぜ平時の状態では
できないのだろうか。

ここで問題を、少し変えてもいい。
「一年間に、10%のコスト低減ができなければ、お前は来年から仕事を失い、
そして新たな仕事を得る見込みもなくなる」と。なんと、容易に思えること
だろう。たったの、10%で良いのか、と思った人もいるに違いない。
失業するくらいであれば、必死に頑張って、10%のコスト低減くらい成し遂げる
人が続出するだろう。
結局は、仕事の成果とは、その緊迫感の有無にかかっているところが大きい。

あるとき不可能だったものが、前提を変えるだけで可能となる。それがたとえ
「1億円を持って来い!」だったとしても。

では、この比喩は極端なものなのだろうか。

私にはそう思えない。どの企業も、どの個人も、恐ろしい崖っぷちに立っている
にも拘わらず、その危機感は希薄である。
「一年間に、10%のコスト低減ができなければ、お前は来年から仕事を失い、
そして新たな仕事を得る見込みもなくなる」という仮定は、極端なものではなく、
まさにバイヤーが今置かれている状況だと思うのだ。

もちろん、家族を虐殺される、という仮定に比べたら、それは易しい。しかし、
私にはその程度の切迫感をもって仕事に立ち向かうべきときだ、と思われる。

会う人、会う人が口を揃えて「今大変なんですよ、給料も下がっちゃって」と
嘆いている。しかし、その人たちの中で、実際に変革に向けて挑んでいる
人たちは、驚くほど少ない。何かを必死にやり遂げようとする人たちも、
驚くほど少ない。

これでいいのだろうか。

出てくる愚痴は、「政治が悪い」「会社が悪い」「本社が悪い」
「環境が悪い」ばかり。
でも、そう叫んでもマクロを一変させることはできない。
しかし、身近なミクロを変えていくことはできる。
少なくとも、変えるために努力することはできる。

家族が虐殺されるというレベルの危機感を常に抱き、調達・購買部員が
一丸となって日々の仕事に取り組んだら、どれだけの変化があるだろう。
どれだけの素晴らしい将来を創り上げることができるだろう。

必要なのは、たいしたものではない。少しの情熱、少しの勇気、
そして少しの知識だろう、と私は思う。

同時に多くの人は、おそらく、本気じゃないんだな、と思う。
「今大変なんですよ、給料も下がっちゃって」と言っているバイヤーは、
現状を嘆くだけで、ほんとうに何かの変化が必要だとは思っていない。
変えようと、一歩を踏み出すことができていない。

そう、本気じゃないのだ。

でも、本気じゃなくて良いのだろうか。ここで繰り返し書いてきたように、
いま、たとえば日本の製造業は歴史的転換点にいる。そう思う。
今後、円安誘導で多少企業の業績が改善したからと言って、それは小手先に
すぎない(以前、拙著「利益は「率」より「額」をとれ!―1%より1円を
重視する逆転の発想」に理論的に書いてみた http://amzn.to/bxwm6U )。
産業構造の大幅な転換こそが求められている時期にきている。

焼け石に水の政策も、しないよりはしたほうが良いだろうが、根源的な
問題解決ではない。

これまでのような、悠長なことは言っていられない。
途上国は、劇的なコスト安価な労働力をもって、すぐそこまで日本を
追いかけてきている。そうなれば、これまでの調達・購買業務も変化せざるを
得ない。そして、これまでになかった、大幅なリストラクチャリングも
経験することになるだろう。

変化のためには、自己宣言としての目標が必要だ。
あなたは、「半年以内に10%のコストを削減する」という目標を立てるだろうか。
あるいは、「内製比率を劇的に下げ、50%以上を途上国へのアウトソーシング
によってまかなう」という暴挙に出るだろうか。それらは、すべて過激と
思われつつ、しかし、立てなければいけないかもしれない。

変化が必ずしも良い結果を生むとは限らない。ただ、良い結果を生むためには
変化が必要だ。

いまこそ、暴言のような目標を聞きたい。
いまこそ、暴挙のような組織改編を見たい。

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