2008.12.15号
「購買係心得帳その2/『また手伝いに来て下さい』『はい、よろこんで』」

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        「目指せ!購買改革!!」     
      〜調達購買マネジメント最前線〜
──────────────────────── 2008.12.15 ───

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  ☆今週のメッセージVol.1
        「購買係心得帳その2」
  ☆今週のメッセージVol.2
        「『また手伝いに来て下さい』『はい、よろこんで』」
  
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■ ☆今週のメッセージVol.1「購買係心得帳その2」
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今回は前回に引き続き、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏の
「購買係心得帳」の続きについてご紹介します。

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購買係心得

<第8条>
注文書発行及び注文先に書類を出す時には、
主任または係員の印と部長の印を押して出すこと。

<第9条>
必要に応じては、注文先を巡視してもよい。
その時には部長にその用件を申し出て許可を受けること。
この際、先方にて昼食を時間の都合で工場内でよばれることは
差し支えないが、高級な料理屋でよばれることは避けること。
夕食は絶対に避けること。
もしやむを得ずよばれてしまった時には、
その理由を部長まで書面で出すこと。

<第10条>
購買先からの中元歳暮は出来るだけ断ること。
やむを得ない場合は、それを受け取って部長に提出すること。
また、招待を受けた時には、原則として断ること。
やむを得ない場合は、部長とともに行くか、
部長が出席できない時には、部長の許可を得て出席すること。
注文先の人の家庭訪問は絶対に断るようにすること。

<第11条>
値段の交渉、その他、買入先の人々と対談する時には、
自分の席ですること。応接間でしてはいけない。
ただし、先方の主人または重役相当級の人が挨拶に来られた場合には、
応接間に案内し、丁寧に挨拶し、
部長にも面会してもらうように注意すること。
自席で対談する時に、お客にお茶を出すことは差し支えない。

<第12条>
注文先に出す書簡は会社を代表して出すことになるため、
会社の対面を損することのないよう出来るだけ丁寧な文句を使用すること。
部長はこの書類を見て不満な場合は書き直させること。
また電話をかける場合も尊大振りな電話の対応をすることを慎むこと。
そのようなつまらないことで先方の感情を害することは、
購買係の拙劣であることを示すこととなるため、
部長は常に電話のかけ方が悪い場合は注意すること。

<第13条>
各係はお互いに連絡を取り、材料値段の変化を研究するとともに、
各係お互いの便宜を図り、納期・値段等については
工場全体の立場から見て、ただ単に自分の立場ばかりが有利になることに
没頭することを避けること。

<第14条>
納期督促については、他係からの注意を受けるまでもなく、
常に注意をし、督促係を使用して納期が満足にいくように努力すること。
ただし、会社全体の都合もよく注意し、
他に譲った方が会社として有利な場合にはその方に協力すること。

以上14ヶ条が厳守されているか否かを監視する役目は、
材料係、検査係及び各部長とする。
もし上記事項に違反する行為ありと認められる場合には、
直ちに忠告すべき義務があるものとする。

昭和12年7月15日
常務取締役 豊田喜一郎
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後半の7条にも多くの重要なことが含まれています。

まずは第9条、第10条。
最近はCSRの視点から接待や贈答の禁止をうたう日本企業も増えていますが、
購買という仕事がら、この当時からこれらの行為を戒めている点は、
多いに注目すべきだと思います。
日本的な文化から考えると多分その頃には過度な接待はともかく、
お中元・お歳暮などは当たり前の文化であり、
受け取らないのは「野暮」である、という考え方が主流だったと想像します。

しかし、当時から具体的な禁止行為を定めた上で、
周知徹底させている点でかなり先進的です。

防衛省の事件やNHKの不正支出事件を見てもわかるように、
購買という立場を利用し私的な利得を得ることは
社会的に最も批判されるべき行為です。
またこのような事件が明るみになり、
製品の不買運動や受信料の支払拒否運動につながることで
企業や団体の収益に考えられないほどの大きな影響を与えることも
まれではなくなっています。

第12条も同様です。
購買という職種は知らず知らずのうちに会社の看板を
自分の力に勘違いしてしまい、本来であれば対等かつ
礼節を一層重んじなければならない職種であるにも関わらず、
尊大な態度をとってしまうこともよくあります。
「そのようなつまらないことで先方の感情を害することは、
購買係の拙劣であることを示す」正にその通りです。
「先方の感情を害すること」ほどやってはならないことです。

第13条も実は多くの企業で現在でもできていないことです。
特に「各係はお互いに連絡を取り・・・」これがなかなかできていません。
購買の仕事は担当品目や担当サプライヤ毎に
縦割りになっているケースが多く、
極めて属人的な進め方がなされています。
となりのバイヤーがどのようなやり方をしているか、
全く分かっていないケースも多くあります。

このように購買が陥りやすい罠に対する戒めの意味を含んだ「心得」は
現場の様々な出来事から生まれてきたものなのでしょう。

昨今でも企業の調達サイトを見ると各社の調達方針を見ることができます。
だいたいのケースで
「オープンかつ公平な購買活動」、「環境にやさしい」、「Win-WIn」
というようなキーワードが飛び交っていますが、
どこまで実態に即したものなのか、
綺麗な言葉を並べているだけのような気がしてなりません。

前回のメルマガである方からこの心得帳に関するご感想をいただきました。

「『恐ろしくシンプルで余計なことが削ぎ落とされているために
本質がクリアである』ことが凄い」

正にその通りですね。
想像するに多くの問題点が当時山積していたのでしょう。
「現場から生まれた現場の声」で作られた心得帳なので
「本質がクリア」なのでしょう。

我々はどうも自分の言葉で語る場面が
少なくなってきているような気がします。

(野町 直弘)

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■ ☆今週のメッセージVol.2
■□      「『また手伝いに来て下さい』『はい、よろこんで』」
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昨今、自動車会社を中心に期間従業員や派遣社員、
業務請負の社員の方の解雇が問題になっています。

この問題に関しては、
それぞれの会社の事情や社会のシステムの問題もあるので、
一概に良い悪いとは言えません。

しかし、短期の従業員でもその方々を
たいへん重要な戦略として考えている企業も少なくありません。
首都圏のある物流加工会社の例を挙げます。

12月に入り、「お歳暮」を贈る方、受け取られる方も多いでしょう。
贈り主は、例えばデパートなどで商品を選び、
送り先を伝票に書いて代金を払います。
多くの場合、そこから先はデパートなどから委託を受けた物流加工会社が、
商品の詰め合わせや贈答用の包装を行い、送り状を貼って出荷・配送します。

この会社も、荷主から商品を預かり、
詰め合わせなどの加工をして出荷する業務を受託しています。
特に食品を多く扱っています。

この会社の大きな悩みであり、またうれしい悲鳴でもあることは、
どうしても「お中元」「お歳暮」の季節に作業が集中することです。
特に11月、12月は24時間体制が必要なほど「超繁忙期」になります。
おせち料理用の出荷が終わる12月31日まで稼働します。

仕事があって忙しいのは良いことですが、
最大の懸案事項は「スタッフの確保」です。
年末の繁忙期に向けた採用活動は、実は8月、9月くらいから始めています。
社員は20名ほどですが、
繁忙期には100名以上のスタッフ・アルバイトを集めて作業をこなします。

この会社では、人材紹介会社に頼るよりも、
あえて地元の求人紙やチラシへの広告を重視しています。
応募してきた人とは、作業内容や条件だけでなく、
自社の「仕事」や「人」に対する考え方を時間をかけて説明しています。

採用が決まると作業に入りますが、
実は作業環境は決して快適ではありません。
食品なので冷凍品や冷蔵品も多く、品質が劣化しないよう、
冬でも暖房が入らないからです。

だからこそ、いや倉庫内の温度とは関係なく、
この会社の最大方針は『働きやすい職場を作ること』であり、
なるべく社員とスタッフ、スタッフ間のコミュニケーションを図っています。

作業が始まると、社長や現場管理者は、
スタッフが作業中であってもなるべく声をかけるようにしています。
「どうだい、調子は?」といった何気ない声かけで、
スタッフとの距離を縮めるようにしています。
特に新人スタッフには多く声をかけ、緊張をほぐすようにしています。
人数が増えても同様です。

声かけだけでなく、一緒に現場に入り、
スタッフと同じ仕事をするようにもしています。
人が足りないからではなく、作業の段取りに非効率な点があれば、
それを発見して改善を図るためです。

さて、この会社では今述べてきたことを意図して行っています。
その理由は、「一度来てくれた人に、また来てほしい」からです。

本当は仕事の量が安定していれば長期で手伝ってほしいのだが、
残念ながら繁閑の差が大きく、どうしても繁忙期だけの人も出てしまう、
でも次の繁忙期にはまた来てほしい、という想いがあります。

確かに、経験者に来てもらうほうが、
新しい人を採用するより面接の手間も作業を教える負担も
軽減されるでしょう。
スタッフの確保に費やす労力を考えると、
経験者が採用できるメリットは非常に大きいでしょう。

ただ理由はそれだけではなく、
「ウチでの仕事が働きやすい、また来たい、と感じてくれた人には
またその機会を提供したい」

という考え方もあります。
普通であれば、
「短期でしか採用しないのに、また来いとは虫のいい話・・・」
となりますが、
次の繁忙期に再び来てくれるスタッフも結構いるとのことです。
もちろん全員ではありませんが。

社長はよく次の言葉を公言しています。

「一般に『お客様は神様だ』、『お客様が最も大事』と言うが、
ウチで1番大事なのは社員・スタッフ、
2番目は我々と一緒に仕事を進めるパートナー会社(運送会社など)、
そして失礼なようだがお客様(荷主)は3番目である。
それは1番と2番の協力が得られないと
お客様にサービスが提供できないからである」

人の力に依存する割合が大きい業態ならでは、
という見方もあると思いますが、実はどのような業態であっても人、
つまり従業員の力には依存するはずです。
当然といえば当然ですが、私には印象的な言葉として残っています。

「今回はどうもありがとうございました。非常に助かりました。
 また手伝いに来て下さい」

「はい、よろこんで」

この物流加工会社にとっても、
昨今の景気変動により受注量が減ってくる懸念があります。
それでも、スタッフの確保、働きやすい職場作り、
そしてまた来てくれる人を増やすことは、
今後も最重要事項であることは変わらないそうです。

(大塚 真太郎)

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